南泰隆写真展「鏝絵のまち」

2023年4月3日(月)~4月9日(日) 水・木曜日休廊
13:00~19:00 最終日は17:00終了

 「鏝絵(こてえ)」とは、左官職人が土蔵や家の戸袋などの平らな面に塗られた漆喰の壁面に、鏝を使って肉薄状に盛り上げた彩色漆喰で描いた絵のことである。大分県宇佐市安心院(あじむ)町では、明治初期から盛んに作られるようになった。その目的は、施主が左官に招福避邪を願って依頼された場合がある。鏝絵にかける願いとは、恵比寿は商売繫盛、虎は疫病除,波うさぎの波は火事除けで、願いで最も切実なのは火伏せであった。安心院では鏝絵は約100ヶ所に点在するが、崩落したり、傷んでしまったりで見ることができるのは約60ヶ所でまた、安心院周辺に鏝絵が集中して作られたのは、長野鐵道など腕のいい、左官職人を多く輩出したことがその理由である。
 私が鏝絵を知ったきっかけは、以前写真仲間から「安心院町の鏝絵はおもしろい」と言われたことを思い出し、安心院町に訪れたところ町のいたるところに鏝絵があり、驚いたと同時に町全体が鏝絵とどう関わっているのか、当時の左官職人が鏝で造ったといわれているこの造形物に面白さを感じ興味が湧いて、京都造形芸術大学の卒業制作としてこの作品制作に取り組んだ。
 安心院町の人々は、鏝絵を特別なものとせずに慣れ親しんだ風景の一部として捉えていた。また普通の家に当たり前のこととして鏝絵があるというのがある意味面白く感じた。しかしながら100年も経った造形物が今後も残っていくかという観点からせめて写真で記録として残していくべきだと思いこのテーマに取り組んでみた。今後100年後鏝絵のまちがどう変わっていくのか、変わらないのかたいへん興味深いと思う。